トップページ > 映画 > 放射能X

 2010年5月5日更新

映画「放射能X」(原題/英語題 Them!)

2010年4月4日シネフィルイマジカにて鑑賞


『人間は戦わないアリである』


 「人間以外で戦争をするのはアリだけだ」と昆虫博士はいった。巨大アリが襲来する脅威を物語るシーンでのことだ。この映画においてアリの集団は、侵略のための“軍隊”を表象している。
 アリは他の巣への侵略と略奪を繰り返し、生け捕ったアリを奴隷にする。「人類最初の核実験によって、アリが突然変異を起こして巨大化したのではないか。人類もすぐに滅ぼされるだろう」と博士は警告する。そしてたとえ、この巣を撲滅しても他の核実験によってすでに別の巣が生まれている可能性を否定できないという。
 人類(アメリカ人)が核により克服したつもりでいたはずの侵略と略奪のための戦争が、まさに、その核によって、いつまた蘇るかもしれない。そんな脅威が、現在よりはるかにリアルだった時代の映画である。
 「人類は核実験により新たな時代の扉を開いた。その世界がどんなものか想像もつかない」と博士がいっているように、その後の人類の歴史はもっと複雑で面倒な状態に陥っていった。もっとも、現在における戦争の主なテーマは“侵略と略奪”ではなく、“憎悪と復讐”がトレンドとなっているので、アリの集団のような近代的な“軍隊”はもはや自滅しかけているといってよい。
 ところで、主人公である巡査部長ベンは可哀想だ。部下の殉死に責任を感じて心を痛め、地道な捜査を実直にこなし、子どもを救出したあげくに自らもアリに殺されてしまう。一方で、いっしょにくっいて廻っていたヤサ男のFBI捜査官は、博士の娘である美人学者ばかりに眼がいっていてあまり役に立たっていない。何のためにいるのかわからない存在だが、美人学者とはイイ感じの雰囲気になっていく。最後の華々しい活躍も持っていっちゃうし。でもこの後FBI捜査官は、結局、美人学者にふられると私は思う。博士はアリの生態について他に「女王アリは羽根のついた雄とハネムーンに飛び立ち、交尾のあとすぐに雄は死ぬ」といっていた。なんだか、FBI捜査官の行く末を暗示しているような気がしてならない。戦わずして子孫を残す羽根付きの平和な雄は、現代の人間の理想像ともいえるが。

2010年4月4日シネフィルイマジカ
「放射能X 」(原題/英語題 Them!)
監督 ゴードン・ダグラス
出演 ジェームズ・ホイットモア、エドモンド・グウェン、ジョーン・ウェルドン、ジェームズ・アーネス
脚本 テッド・シャードマン、ラッセル・ヒューズ
原案 ジョージ・イェーツ
製作年 1954年製作国 アメリカ
上映時間 95分
モノクロ

放射能X [DVD]




ページの先頭へ